🍓🚬

You are perfect

Breath18

18.去るべき人


Tinが留学期間を終わらせ帰ってきた。しかし、TinがHinにけがをさせたことで騒ぎが起こる。TinがHinの母親を解雇しろと騒ぎ出した。Hinは家族が失業し路頭に迷うことを恐れ、自分が出ていくと申し出る。


それでもTinの気持ちは納まらない。そこでRasa(Tinの母親)が現れ、Hinに怒りを露わにする。誰も解雇しないこと、留学先から帰ってきたHinを再び留学させることを宣言する。Tinは怒って拒否するもRasaは受け入れなかった。

Hinの自室にて母親にけがの手当をしてもらう。母親は開口一番に言う。

 

"Tinさんを怒らないで"

"わかってるよ。僕は怒ってないから。この家の人にお世話になっているのはわかってる。ただ帰る場所がないことを心配しただけ。"

 

幼い頃から両親にこの家の住人の面倒を見る義務があると教えられ、その命令を守らなければならなかった。いや違う、彼は命令に従わず、自分のやりたいことを自粛しTulを特別に世話してきた。

 

“お母さん安心した。あなたが本当に解雇されるのかと思ったの。Tinさんはそういう権利がある人だから"


”Tinにそんな権利はないですよ、おばさん”


“Tulさん!”

 

突然部屋のドアが開き、母親は慌てて振り向いた。Tulは申し訳なそうに笑いながら部屋に入ってきた。

 

“おばさん申し訳ありません”


“いいえそんな”

 

そしてTulはHinの目を覆い隠しているこめかみに視線を止めた。

 

“おばさんは心配しないでください。誰もおばさんやHinをこの家から追い出すことはできません。”


“それはどういう意味ですか?”


“Tinは祖母から多くの遺産を相続していますが、この家での権力はありません。父がいる限り、Tinはここでは何も決められないし、両親以外に誰も解雇する権利はないんです。僕も同じです。それに、僕はHinをどこにも行かせない”

 

この言葉はHinの気分を良くさせた。

 

"Tulさんありがとうございます"

母親は涙を浮かべた。

 

Tulは手を伸ばして小さい時から彼を世話してくれる男の手をとった。

 

“そんなこと言わないでください。おばさんは家族同然です。心配しないでください。”

 

それからTinは続けて

"さっきおばさんを探している人がいましたよ”と言い、Hinの母親を部屋から出ていかせた。

 

Tulは2人きりになった部屋の扉を閉め、すばやく鍵をかけた。HInは暴虐の感情が彼に波及するのを静かに待った。ひどく恐れ、起きたことが主人の要求に合うかどうかもわからない。合わなければひどい目にあうだろう。しかも、薬の麻酔作用が残っていて力が十分ではない。


“あいつがお前にグラスを投げたのか。”


“ぶつけてしまっただけだよ”


“頭にグラスを投げるようなやつを庇うなんてバカなのか!?”

 

Tulはうつむいて震えながら、再び頭をあげ彼の目に触れた。


“はい、僕はばかです”

 

Tulは不満気に握りこぶしを作った瞬間、Hinは目を閉じた。彼は痛みが落ちるのを待ったが予想だにしてないことが起こった。

 

Hinはすぐに目を開けて、相手が殴ったり首をつねったりしていないことに気がついた。なんと、背の高い若い男に両手で抱きしめられていた。しかも抱きしめるその手が震えているとは信じがたい。

 

“あいつはお前に他に何かしなかったか?他にもケガをさせたんじゃないか!”

 

突然、信じられないような質問を受けて、Hinは目を大きく開けて、彼を抱きしめる人の後頭部を見た。

 

"お前を傷つけるようなことは誰にもさせない"

 

Hinは今まで数多くの苦痛を心と体全体で経験してきた。しかし、不思議なことに相手に心配されると、ひどい痛みに襲われた傷は信じられないほど軽減し、相手の関心は痛みを抑える最善の薬へと変わった。

 

*1

 

HinはTulの身体をきつく抱き締めた。肌の温もりを感じるまで強く抱擁することで、すべての炎を消し去ることができたように感じた。

 

Tulは大きな体を離なして、Hinの体を知るために頭を下げ、彼のこめかみを見つめた。傷は見えなくても、そこに手を伸ばした。Hinはこのような優しさに出会えるとは思っていなかった。指先が傷に当たったときは、痛みを感じたがそのままじっと座り続けた。そして、相手の名前を呼び、美しい輝きを放つ目を見ていた。

 

“かなり痛むか?”

“いや、もう痛くないよ。”

“もうあの死んだガキ(Tin)とお前を一緒に外出させないからな。”

“僕は大丈夫。Tinはただ...”

“あいつの名前を口にするな!”

 

急に暗い声が響き、Hinは言葉が出ない。彼は名前を聞きたがらないが、Tinもそうなることを望んでいないだろう。彼が唯一家族と呼べる大切な人を失ってほしくない。

 

“Tinはまだ幼い。わざとではないよ。”

“店に行って暴れて...もう何と言えばいいのか。”

 

Tulは首を横に振り、声は穏やかになった。

 

“薬、飲むか?”

“食後に飲むよ。”

 

もう少し話を続けたかったが、鋭い目つきがこれ以上話をしたくないことをもの語っている。Hinはこの質問に答えると、ベッドサイドの上に置いてある薬袋を振り返り見た。若い主人はまだ夕食時ではないと頭を下げ腕時計を見た。

 

“休め。”

 

Hinは主人が部屋を出ていくと思っていた。しかし、ベッドの側に座っているTulの姿勢は、彼にどこにも行かないことを教えている。寝るのをためらっていると

 

“寝てろ。”

 

手の平に指示があってマットレスをたたくと、枕を支えながらHinを寝かせた。

 

“食事の時間になったら起こすから。”

“ Tulはここにいるの?えっでも...”

“まだ話す気力があるなら、寝たらどうだ?


" .....昔は、お前がこうやって俺の頭に触れてくれたな。”

 

混乱した意識の中で、主人の独り言が聞こえた。祖母から虐待を受けた少年時代がよみがえる。Hinが主人を寝かしつけたことはあっても、Tulが逆にそうすることはなかった。長い指が震え、Hinが完全に眠ってしまう前に呟いた独り言に胸が締めつけられる。

 

“どこにも行くな、行かなければならないのはあいつだ。あいつが二度と俺の目の前に現れないようにしてやる。"

 

Tulそんなことしないで、僕のためにそんなことしないで・・・

 

*1:)DVの典型過ぎてもう笑うしかない