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You are perfect

モーリス(1987)

モーリスとアレック(映画の後半部分)に焦点を当ていろいろ書いてみました。

モーリスはクライヴと別れてからも友人としての関係を続けていきます。そんな中、ダラム家の使用人として雇われたアレック・スカダーと出会います。人目見たときからモーリスに心惹かれていたアレック。意識して声をかけたり、わざとチップを受け取らなかったり。彼なりのアピールをするもののアレックの好意にモーリスはまったく気づきません。

ある日の夜、アレックがモーリスの寝室を訪ねた(侵入した)ことで、ふたりは結ばれます。というかアレックの衝動をモーリスが受け入れたという形です。これまではモーリスにとってアレックはダラム家の使用人に過ぎない存在でしたが、この出来事をきっかけに深い関係に進展していきます。

クライヴとの関係が恋人から友人に降格したこと、自分が同性愛者であること、その苦しみや喪失感を埋めてくれたのがアレックの愛だったのかなと思います。

しかし、モーリスは不安や恐怖からアレックと距離をおくようになります。ボートハウスにも来てくれない、手紙の返事もくれない。アレックはしびれを切らして、モーリスの会社を訪ねます。スーツを羽織って、きれいに髪をまとめて・・・。労働者階級のアレックが最大限にできる正装です。なんとも健気ですよね。

やっと会えたものの仕事の関係者と鉢合わせて、アレックに対して他人行儀に振る舞うモーリス。アレックは苛立ちを抑えられず「会えて嬉しくないのか?もてあそんだのか?このままで済むと思うなよ」と脅します。

そうかと思えば、デートを楽しむ恋人のような会話をしたり、突然アレックが「訴えてやる」と詰め寄ったり。落ち着いていたモーリスも感情的になり、それまで強気だったアレックは動揺します。彼らの感情に波があるため、会話も表情もその度にコロコロと変わります。

ここは私の好きなシーンのひとつでもあります。「心から愛しているからこそ、自分を裏切るなんて許せない。もてあそぶなんてもってのほか。でも心から好き!」みたいな。アレックの心はモーリスへの憎しみと愛情が隣り合わせになっている状態です。アレックの放つ言葉はトゲのようにも見えますが、彼への真剣な思いが感じられて、私は好きです。

結局その日、アレックの強い願いでふたりは一晩を共にします。モーリスは、自分に愛を求めるアレックの姿と 、クライヴに恋い焦がれるも拒絶された過去の自分を重ねていたのかなと思います。それからいろいろありましたが(割愛します)、モーリスとアレックは階級を越えて、ふたりで生きていくことを決意します。

冒頭ではデューシー先生が14歳のモーリスに男女の性愛の素晴らしさを解く場面があります。そのときに先生は「10年後に君と奥さんを食事に招こう」と約束しています。そのデューシー先生と偶然に再会したとき、彼の隣にいたのはアレックでした。運命の相手はアレックであることを暗示させるシーンに思えます。

クライヴと重ねた愛と苦しみはアレックと出会うための通過地点に過ぎなかったのだと、私は思いたいです。その証拠に、モーリスはクライヴのときと同様にアレックに対しても"すべてを捨てて一緒に生きていこう"と告げています。ラストの抱擁とキスはふたりの本気の愛を感じさせるものでした。

ようやく心も体も通じ合える人と出会うことができたモーリスと、社会的な地位と名誉、そして女性との愛を手に入れたクライヴ。対照的な選択をした彼らの人生が、この映画で描かれています。

何とも言えない悲しさ、切なさに襲われる作品です。けれどそこがこの映画の良さだとも言えます。たとえ刹那的な関係だったとしても、二人が出会えたことそのものが美しいと思います。人生の中で、心から大切に思い合える人との出会いはそう多くはないでしょう。

あのときあの場所で、共に過ごした時間や感情は永遠です。生涯消えることのないあの日々はきっとずっと二人の心に残り続けると信じたいです。

私はこれで良かったんだと思います。ふたりの道は交わることはあっても、ひとつに重ねることはできなかった。それぞれの思い描く理想の愛の形に着地できたので、これからふたりはそれぞれの道で幸せになってほしいです。




追記
見るたびに傑作だな、Lana del rayとの相性が良いなと思います